システム手帳愛用歴36年の自分が「ノックス」に求めるのは、伝統が支える緻密な作り込みと斬新な発想による革新的なデザインだ。オーセンと並ぶハイエンドモデル「フラクト」には、「ノックス」の伝統と革新を体現する美が細部に宿っている。
システム手帳は日常を共にする道具であり、手にしてカバーを開くたびにデザインに宿る美を味わいながら楽しく使い込んでいきたい。「フラクト」のベルト付き・ナチュラルを使い始めて約1ヵ月が経過した。文具店の店頭で眺めるだけではわからない、五感に伝わる「フラクト」の魅力を体感している。自分の道具として使い込んでいくと、上質な素材、各パーツの作り込み、縫製などの細部の美が饒舌に語り出す。使って初めて実感できた「フラクト」の美、そして機能を紹介しよう。
システム手帳は日常を共にする道具であり、手にしてカバーを開くたびにデザインに宿る美を味わいながら楽しく使い込んでいきたい。「フラクト」のベルト付き・ナチュラルを使い始めて約1ヵ月が経過した。文具店の店頭で眺めるだけではわからない、五感に伝わる「フラクト」の魅力を体感している。自分の道具として使い込んでいくと、上質な素材、各パーツの作り込み、縫製などの細部の美が饒舌に語り出す。使って初めて実感できた「フラクト」の美、そして機能を紹介しよう。
タンニン鞣しの革は約1ヵ月で濃厚な飴色変化が始まる
「フラクト」は上質な革素材を厳選し、裁断、念引き、コバ磨き、縫製など、すべての工程を一人の熟練した職人が作り込んでいる。自分が選んだ色「ナチュラル」は、使い初めはベジタブルタンニン鞣しのヌメ革らしい明るいベージュ色。使い始めて数週間で茶色を帯びた飴色への変化が始まった。中面も同様で、美しい経年変化が楽しめる。
「ノックス」のデザインの核心は「素材」にある。素材の魅力が最高に発現するように、機能、色、形などのデザインが緻密に構築されている。「フラクト」のカバー素材である牛革(ステアショルダー)「アラスカ」は、柔らかい表情のシボが特徴。北米アラスカの雪原を思わせるような白いワックスが表面に吹き付けられている。使い始めると最初にシボの凸部のワックスが取れ、美しい濃淡が現れてくる。さらに使い込んでいくとワックスが全体に擦り込まれ、独特の艶が内側からにじみ出てくる。1ヵ月の間にかなりハードな使い方をしてみたが、革の地に潜んでいたヌメ革の色が出てきて、ブラッシングするだけで艶が上がり、そして陽光を浴びることで上写真のような濃厚な飴色に変化し始めた。
徹底したハンドメイドが生むステッチのぬくもり
「フラクト」は机上にぽんと置いただけで独特の雰囲気を濃厚に漂わせる。その肝となっているのがステッチの美だ。カバーの上下端に2列のステッチが並んでいるのだが、よく見ると上下のステッチの景色が違う。ステッチの間隔、角度が絶妙に揺らいでいるのだ。これらの縫製は電動ではない旧来の足踏みミシンを使っているという。自分のペースでひと針ずつステッチを加えていくことで、極上の革素材が持つソフトな印象をステッチが引き出し、ハンドメイド独特のぬくもり感をユーザーにもたらしている。
ハンドメイドを追求する職人魂が強烈に宿っているパーツもある。表カバーの上下の端と、革パーツを2枚重ねしている剣先ベルト中央の大きなステッチだ。この2つの部分の縫製はなんとハンドステッチ(手縫い)。「フラクト」の佇まいに堅牢さと大胆な印象を加えている象徴的な細部といえるだろう。
緩やかなラインが生む機能美
ハンドメイドが生むぬくもりは、「フラクト」のパーツの緩やかなラインにも潜んでいる。各パーツの裁断は革専用の包丁を使って職人が手作業で行っているそうだ。剣先ベルトやペンホルダーの開口部などのエッジが利いた緩い曲線は、ベルトやペンの抜き挿しを円滑にする機能美であり、同時に「フラクト」独特のやわらかな佇まいを生み出している。
「フラクト」の強力な「収納する力」を生むジッパーポケット周辺にも緩やかなラインがたっぷりと潜んでいる。
へり返しとコバが融合した斬新な風景
ジッパーポケットの構造も独特だ。まず大型のサイフを作ってそれをカバーに合体させる凝った作りをしている。ここにも「フラクト」の美学が宿っている。カバー端の処理は「へり返し」をしている。革素材の端(へり)の裏同士を合わせて縫製する、革小物の伝統や古風さを感じさせる端処理(コバ)だ。一方、ここに合体しているジッパーポケット部の端は「切り目」と呼ばれるコバ。革を切断し、切断面にはニスなどを加えて磨き上げている。
へり返しの丸みを帯びた部分は、タンニン鞣しの革独特のエージングが進み、飴色の艶と深みがどんどん増していく。隣接したポケットのコバは最初から磨きがかかっていて光沢を放っている。へり返しと切り目を融合させたハイブリッドなコバは斬新な風景を生み出す。こんなシステム手帳を自分は見たことがない。
へり返しの丸みを帯びた部分は、タンニン鞣しの革独特のエージングが進み、飴色の艶と深みがどんどん増していく。隣接したポケットのコバは最初から磨きがかかっていて光沢を放っている。へり返しと切り目を融合させたハイブリッドなコバは斬新な風景を生み出す。こんなシステム手帳を自分は見たことがない。
日々熟成し、細部の美に酔える幸せのシステム手帳
カバーを開いた中面の右にあるアオリポケットの端には「念」が入っている。念とは革パーツの縁に入れる飾りの溝のこと。アオリポケットの形は絶妙な緩い曲線でカットしてあるのだが(一見すると直線に見えてしまうくらい)、この端のカットラインに沿うように繊細な念が入っている。パーツの端ぎりぎりを攻めた念なので、一見すると縁取りのデザインのように見える。同じような念は、ペンホルダーの挿入口やジッパーポケットの仕切りパーツなどにもある。「フラクト」の細部を眺めるほどに、職人の作り込みの凄さが伝わってくる。
日々使い込むごとに、素材が熟成し彩りに深みが増していく。そして手にするたびに細部の美に酔うことができる。「フラクト」は、日常生活の中で非日常的な悦びを与えてくれる、小さいけれど確実な幸せを呼ぶシステム手帳なのだ。
文・写真/清水茂樹(編集者・文具ディレクター)
1965年生まれ。
2004年に日本で唯一の文房具の定期誌「趣味の文具箱」を創刊。2016年からはシステム手帳の魅力と最新情報を発信する雑誌「システム手帳スタイル」を発刊。2009年から2022年まで日本文具大賞(ISOT)審査委員。
現在は主にシステム手帳の商品企画と、魅力の発信に取り組んでいる。
1965年生まれ。
2004年に日本で唯一の文房具の定期誌「趣味の文具箱」を創刊。2016年からはシステム手帳の魅力と最新情報を発信する雑誌「システム手帳スタイル」を発刊。2009年から2022年まで日本文具大賞(ISOT)審査委員。
現在は主にシステム手帳の商品企画と、魅力の発信に取り組んでいる。
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