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良い紙で書きたい。心地良く、書く意欲が持続するような紙で。手書きの時間は限られている。自分の好きな書き心地を叶える紙をいつでもスタンバイしておきたい。システム手帳はリフィル=紙を選べる。どのリフィルを使おうが自由。これは紙が定まっている綴じ手帳にはない大きなアドバンテージだ。でも「KNOX」のリフィルを選ぶと、きっと使い続けることになる。いろいろ試しても戻ってくる。なぜか。「KNOX」のリフィルに使われている「DP用紙」は、システム手帳にふさわしい性能を追求して生まれ、最適化した名品だからだ。
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「DP用紙」の厚さは60g/㎡。システム手帳用リフィルとしてもかなり薄めの紙だ。上写真の左はノート用の上質紙を使ったリフィル。右は「DP用紙」。ノート用紙は70~90g/㎡が主流で、100枚を重ねた厚みにはこんなに違いが出る。「DP用紙」は限られたシステム手帳の厚みをスマートに有効活用して、携帯しやすい薄さ軽さを実現している。
「書きやすい紙」は難しい
書くことを前提とする理想の筆記用紙を作るためには、相反する性能を両立させなければならない。インクが適度に浸透する吸水性が必要だが、過度にインクを吸い込むと線がにじんだり裏抜けしてしまう。ペン先の引っかかりを感じない滑らかさとともに、適度な繊維感による書き応えも求められる。書き込んだらすぐ閉じることが多い手帳用紙は乾燥性も重要だ。携帯性を上げるために薄く軽くするとインクが裏抜けしたり、紙が破れやすくなってしまう。
「どんなペンとも相性が良い紙」も難易度が高い。鉛筆や油性ボールペンは紙面に黒鉛を擦りつけインクを転写する。一方、万年筆やローラーボール(水性ボールペン)はペン先から微量のインクを流して紙繊維の隙間に浸透させる。鉛筆では味わいあるラフ紙も、万年筆では引っかかる。滑らか過ぎると芯先が滑ったりボールがうまく回ったりせず、線が安定しないことも起こり得る。
JIS規格によると筆記用紙は「非塗工印刷用紙」に分類される上質紙で、本来は紙の表面に何も塗工していない紙だ。しかし近年は多様なペンに対応するため、吸水性を制御してにじみや裏抜けを抑えるサイズ剤や、紙面の凸凹をならす填料(てんりょう)を極薄にコーティングした“微々塗工紙”が増えている。
「どんなペンとも相性が良い紙」も難易度が高い。鉛筆や油性ボールペンは紙面に黒鉛を擦りつけインクを転写する。一方、万年筆やローラーボール(水性ボールペン)はペン先から微量のインクを流して紙繊維の隙間に浸透させる。鉛筆では味わいあるラフ紙も、万年筆では引っかかる。滑らか過ぎると芯先が滑ったりボールがうまく回ったりせず、線が安定しないことも起こり得る。
JIS規格によると筆記用紙は「非塗工印刷用紙」に分類される上質紙で、本来は紙の表面に何も塗工していない紙だ。しかし近年は多様なペンに対応するため、吸水性を制御してにじみや裏抜けを抑えるサイズ剤や、紙面の凸凹をならす填料(てんりょう)を極薄にコーティングした“微々塗工紙”が増えている。
「MD」から「DP」へ
このように難易度の高い筆記用紙の世界だが、「KNOX」を展開するデザインフィルは筆記用紙に並々ならぬ情熱を注いでいる。1960年代から手帳や日記など毎日使うのにふさわしい紙を求めてオリジナル用紙「MD用紙」を特別抄造し、改良を重ねてきた。「MD」は「ミドリ ダイアリー」を表わす。「MD用紙」に熱烈なファンが多い理由は、紙の風合いと書き心地のバランスだ。前述のような紙の加工はお化粧のようなもので、混ぜたり塗ったりが多いほど厚化粧になる。「MD用紙」は紙という素材を尊重したスッピン美人の紙なのだ。
「DP用紙」の誕生は2008年。ブランドのリニューアルに合わせて新開発された。ペン先の適度な摩擦感にもこだわるなど「MD用紙」にルーツを感じる紙だ。「DP」は「デザインフィル ポケットブック」を表わす。新しい手帳用紙は愛用者を増やしたが、物語はここで終わらない。ユーザーから届く「より破れにくい紙が欲しい」「裏面の文字の透けが気になる」といった要望に応えるべく開発を続行。8年後の2016年、再び大きなリニューアルを実行した。
「DP用紙」の誕生は2008年。ブランドのリニューアルに合わせて新開発された。ペン先の適度な摩擦感にもこだわるなど「MD用紙」にルーツを感じる紙だ。「DP」は「デザインフィル ポケットブック」を表わす。新しい手帳用紙は愛用者を増やしたが、物語はここで終わらない。ユーザーから届く「より破れにくい紙が欲しい」「裏面の文字の透けが気になる」といった要望に応えるべく開発を続行。8年後の2016年、再び大きなリニューアルを実行した。
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リフィルのパンチ穴周辺はめくるたびにリング金具と接触する。この部分の引き裂き強度を上げるべく「DP用紙」の改良がスタートした。
より強い紙にするためパルプ配合を変更
何を変えたのか。システム手帳のリフィルは、めくる時の負荷がパンチ穴に集中して破れやすい。これを改善すべく紙の強度を上げるために行ったのが、繊維の長い針葉樹から抽出したパルプの配合を増やすことだった。針葉樹は広葉樹に比べて成長に時間がかかるため、より高価だが、針葉樹パルプを増やすと素材の密度が上がって締まった紙となる。不透明度(透けない度合い)も上がる。
しかし一筋縄ではいかない。紙が緻密になるとインクは浸透しにくくなり、筆記後インクが乾かず閉じたページを汚す裏移りを起こしやすくなる。そのバランスを取るべく、広葉樹パルプの配合や叩解(こうかい=パルプの繊維を押しつぶし切りほぐす工程)の程度の調整などを繰り返した。そして従来の紙の薄さ軽さ、柔らかな書き味を保ちながら、課題であった破れにくさ、透けにくさを兼ね備えた紙にたどり着いたのだ。密度が上がったことで紙面も滑らかになり、万年筆や水性ペンとの相性も向上した。「DP用紙」はシステム手帳の理想の紙として、優れたバランスの筆記特性を実現したのだ。
このタイミングで紙色を当初のホワイトから「MD用紙」よりも控えめなごく淡いクリーム色に変え、罫線や書体などのデザインもより使いやすい仕様に改良。新しい「KNOX」のリフィルは、さらに多くのシステム手帳ユーザーから熱く支持されるようになる。2017年からスタートしたレザーバインダー(orクリエイティブブツール)ブランド「PLOTTER」でも、この「DP用紙」を採用している。
しかし一筋縄ではいかない。紙が緻密になるとインクは浸透しにくくなり、筆記後インクが乾かず閉じたページを汚す裏移りを起こしやすくなる。そのバランスを取るべく、広葉樹パルプの配合や叩解(こうかい=パルプの繊維を押しつぶし切りほぐす工程)の程度の調整などを繰り返した。そして従来の紙の薄さ軽さ、柔らかな書き味を保ちながら、課題であった破れにくさ、透けにくさを兼ね備えた紙にたどり着いたのだ。密度が上がったことで紙面も滑らかになり、万年筆や水性ペンとの相性も向上した。「DP用紙」はシステム手帳の理想の紙として、優れたバランスの筆記特性を実現したのだ。
このタイミングで紙色を当初のホワイトから「MD用紙」よりも控えめなごく淡いクリーム色に変え、罫線や書体などのデザインもより使いやすい仕様に改良。新しい「KNOX」のリフィルは、さらに多くのシステム手帳ユーザーから熱く支持されるようになる。2017年からスタートしたレザーバインダー(orクリエイティブブツール)ブランド「PLOTTER」でも、この「DP用紙」を採用している。
筆記用紙を180倍の顕微鏡で観察
筆記用紙を180倍の顕微鏡で観察してみた。「DP用紙」は繊維の長い針葉樹から抽出したパルプの配合が多いことが見て取れる。黒っぽい粒状のものは塗工成分と思われるが、「DP用紙」はこれが少なく、繊維の見え方が明瞭で、お化粧が控えめに感じられる。
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DP用紙
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MD用紙
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他社リフィルA
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他社リフィルB
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他社リフィルC
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コピー用紙(再生紙)
太字の万年筆で書いた線のにじみの比較
にじみの比較。太字の万年筆で書いた線を拡大してみた。「DP用紙」のにじみにくさは「MD用紙」や他社のリフィルと同程度で必要十分と言える。コピー用紙(再生紙)は、にじんでいる例。インクが紙繊維の隙間に浸透して線のエッジが揺らいでいる。
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DP用紙
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MD用紙
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他社リフィルC
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コピー用紙(再生紙)
抄紙のたびに筆記テストを繰り返す
「DP用紙」は日本一の水量を誇る信濃川の水を使って作られている。水温の低い時季に、半年分ほどを一気に製造しているそうだ。紙の製造は、大量の水でほぐした原料を網上にシート状に広げ、脱水し、プレスし、乾燥させて巨大ロールに巻き取るという工程を経る。これはどんな用紙にも言えることだが、レシピは同じでも、できる紙は毎回微妙に異なる。パルプや水など紙の主原料は天然のものだし、その日の気温や湿度、さらに抄紙機の調子にも影響される。そこでデザインフィルの担当者はできるだけ毎回「DP用紙」の抄紙現場に立ち会い、ロットごとの品質チェックを自分たちでも行っている。100円のボールペンから高級な万年筆まで、チェック用に定めている10~20種類のペンでひたすら書いて確認するのだそうだ。ここにも「KNOX」ブランドの品質への誇りが感じられる。その根底には「MD用紙」から受け継がれた伝統と情熱がある。
筆記に集中させるリフィル
万年筆で書き比べてみると「MD用紙」特有の魅惑のサリサリ感は「DP用紙」には感じられない。でもペンポイントが捉える微かな面の奥から、同系の感触が伝わってくる。それは加工しすぎた紙では失われてしまう、自然で心地良い書きごたえだ。紙色も絶妙で、今回試したクリーム紙の中では最もホワイト紙に近く「アイボリー」という印象。目には優しいが控えめで、インク色も変化せずに味わえる。
シンプルに徹したリフィルデザインについては別のコラムで考察する予定だが、「KNOX」のリフィルには、筆記に集中させるためのさりげなさが一貫してある。それを支えているのが「DP用紙」という立役者なのだ。
シンプルに徹したリフィルデザインについては別のコラムで考察する予定だが、「KNOX」のリフィルには、筆記に集中させるためのさりげなさが一貫してある。それを支えているのが「DP用紙」という立役者なのだ。
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素材が緻密でムラの少ない「DP用紙」は適度なコシやハリがある。小説「舟を編む」で描かれた理想の辞書の紙のように、薄い紙でありながら指に寄り添うような感触もあり、一枚ずつめくりやすい。
文・写真/井浦綾子(編集者)
1971年生まれ。
2004年から約20年間、日本で唯一の文房具の定期誌「趣味の文具箱」や「システム手帳スタイル」の編集に従事。現在も文具雑誌を中心に、文具の魅力の発信に取り組んでいる。
1971年生まれ。
2004年から約20年間、日本で唯一の文房具の定期誌「趣味の文具箱」や「システム手帳スタイル」の編集に従事。現在も文具雑誌を中心に、文具の魅力の発信に取り組んでいる。
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